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「嫌ではない」
かろうじて出た言葉は自分の気持ちとはほど遠く、いつも自分の気持ちをきちんと伝えられない自分に嫌気がさす。 「あ…そ…」 案の定千鳥は余計に不安そうにというか不満そうになってしまった。 腕を放さない所を見るとまだ弁解の余地はありそうだが上手くできる自信はない。 「千鳥」 「あたしは…いつだって…特別になりたいのに」 「ち…千鳥」 「そーすけは…あたしに…興味ないの…?」 真っ直ぐに見つめてくる千鳥の瞳に吸い込まれそうになる。 触れたい。 そう言えたらどんなに楽か… 「そーすけ」 「ちど―」 重なった唇に何かが弾けた。 「ん~よくねたぁ~」 「かなちゃんおかえり~」 目を覚ますとあたしは木陰に横になっていた。 その隣でそーすけが寝ていてびっくりした。 腕枕しててくれたみたい。 ちょっと恥ずかしかったけど嬉しかった。 荷物置き場から離れてたみたいで戻ったら皆はすでに焚き火で魚を焼いていて食欲を誘う香りがする。 「良い匂い~」 「も~なかなか帰ってこないから心配したよ~」 「ごめんごめん」 宗介はすでに小野Dと風間君と何かはなしている。 お蓮さんがくれた珈琲を飲みながらさっきの事を思い出す。 なんだか凄く 凄く凄く恥ずかしい夢を見たような気がする。 でも暖かく包まれる感覚が目を閉じればやってきて ずっと感じていたいと思ってしまう。 「千鳥」 「わひゃっ!」 いつの間にか目の前にいる宗介に思わず変な声が出てしまった。 「びっくりしたじゃないの」 「さっきから何度も呼んでいたのだが…」 「そっか…ごめんごめん」 「魚が焼けたそうだ。」 そういうと宗介は手を取って歩き出した。 自然に繋がれた手。 暖かい手。 いつもなら手を繋がない宗介から 自然に繋がれた事に胸がドキドキする。 やっぱり恋人同士なんだし、手を繋いだり腕を絡めたりはしたい。 もちろんあたしからは恥ずかしすぎて皆の前では出来ないけど その点宗介は恥ずかしいとかはないみたいだけど 必要以上に触れないようにしてる素振りをする。 大事にされてると思うけどちょっと嬉しくない。 それなのに皆の方にズンズン手を引いて歩いていく。 急に積極的になられると困る。非常に焦る。嬉しいけど恥ずかしい。 とりあえずお魚を貰ってかぶりつく。 手は離してもそばを離れないのはいつもの事かなとは思うけど。 続く PR |
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「千鳥!」
急いで彼女を水の中から引き上げようと近寄る。 幸い水は飲んでいないようだ。 落ちてすぐに常盤が支えたのだろう。 水から出そうと抱き上げると、千鳥が小さく動いた。 「千鳥、大丈夫か?」 「ん~眠。」 心配そうにのぞき込んでいた友人達は その一言に笑いながら離れていった。 「相良くん後よろしくね」 常盤が安心したように笑って言った。 『大丈夫か~ソウスケ~』 「あぁ。問題ない。」 千鳥を近くの木陰に横にさせようと移動しながら 極力肌を触れ合わないようにする。 しかし俗に言うお姫様だっこというやつは いかんせん肌が触れ合うし 手の置き場に困る。 足は膝の裏に腕を通すだけだが、自然と太ももに手がいく。 上半身など胸に触れそうな 位置になってしまう為 気が気ではない。 だが肩に乗せると後が怖い。 早く下ろそうと木陰で下ろそうとしたが首に巻き付いた腕が離れない。 「千鳥。腕を」 「やらぁ~だっこ~」 「ち…千鳥?」 「おひ…めさま…だっこ…」 ぎゅっ むにっ 「!!」 柔らかいものが胸にあたる。 腕が離れない為に半分寝ている千鳥の舌っ足らずな声が耳元で揺れる。 いっそこのまま己の欲望を吐き出してしまえばいいのだろうか? いつもよりも力のない彼女を組み敷いてしまえたらー 柔らかく張りのある肌に 伏せられた長い睫毛 キュッと引き締まったくびれ すらりと伸びた手足 少し開いた艶やかな唇 少し乱れた髪 自分はいつからこんな考えを持っていたのか 汚れ無き強気な彼女を 自分の欲望のままにしてやりたいと思ってしまう。 だめだ そんな事は絶対に許されない。 一時の気を緩みで彼女を失うのは耐えられない。 なんとか冷静さを取り戻すと千鳥に声をかけた。 「千鳥…横になったほうがいい」 「ん~」 「きちんと横になり、体を休めろ。タオルを取ってくる。」 「…」 しかし千鳥はふるふると小さく首を振る。 「千鳥、頼むから言うことを聞いてくれ」 「…」 「千鳥?」 駄々をこねるように首を振っている千鳥。 「千鳥。」 どうしたものかと困っていると 千鳥が此方を見ているのに気がついた。 「起きたか」 「そぉすけは…いや?」 「は?」 「あたしと…くっついてるの…や?」 瞳が不安げに揺れている。 首に腕が巻き付いたまま 逃げられない。 嫌なものか すぐにでも溢れ出そうになる黒い欲望を必死にこらえた。 続く |
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戻ったら宗介はさっきより大丈夫な顔をしていた。
手渡したコーヒーを飲みながら釣りを再開した。 「ソースケ」 「なんだ」 声のトーンも表情も いつもの無愛想な彼に戻っていて なんだかちょっと切なかった。 「何でもない」 何でもないなんてうそだ。 本当は聞きだい。 隠し事されるのはもう嫌なのって言ってしまえば楽なのに 彼の前ではうまく行かない。 「そうか」 「うん」 宗介はチラッと此方を見たけど、またしかけに視線を戻してしまった。 「…」 なんかなー 今日の水着新しいんだけど。 まだ誰にも見せたこと無かったんだけど。 小野Dと風間君はやっぱり男の子だから 女子達の水着姿にちょっと嬉しそうなオーラを出してるのがわかったけど この朴念仁はチラッと見ただけでさったと釣り場へ行ってしまった。 前の水着よか頑張ったんだけどなー 色とかそーすけの好きそうな青にしたし。 前にくれたあの石と同じ色探すの大変だったのに! なーんて言ってもこの朴念仁にはどーでもいいんだろうけど。 なんて そんなわけ無い。 「うそ」 「なに?」 「なんでもないなんてうそ」 「千鳥?」 そーすけがこっちを向いた。 言いたい。 でも素直になれない。 わかってた事だけど、なんだかすごい悔しい。 寝不足のせいで頭は痛くなってきたし 体がだるいしもうかなり眠い。 「そーすけのばか。もういい」 「千鳥?」 立ち上がった私は そのまま背を向けて岩場を降りた。 その時水辺に近い所でいきなり視界が空を捉えた。 「わひゃ!」 「千鳥!」 滑った事に気がついたけれど 時すでに遅し。 いつもならばもうちょっと機敏に動けるはずなのだが… ざぼーん 「かなちゃん!」 「千鳥さん!」 「ちょっと大丈夫!?」 みんなの声を聞きながら 水が冷たくて気持ちよくて もうどうでも良くなったあたしの意識は奥へと沈んでいった。 続く |
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『お前…ばかなの?』
はぁあぁああ… 無線から聞こえるクルツの呆れ声に無意識にため息が出た。 危うく彼女を傷つけてしまうところだった。 蓋をしてもなお溢れ出る欲望に身が引き裂かれるかと思った。 彼女の柔らかい肌が腕に触れ 膨らみが胸に当たり 甘い香りが鼻をくすぐった。 細い指でそっと傷口を撫でられ、ゾクゾクと背中を走る感覚にめまいを覚えながらなんとか声を絞り出すことに成功したものの、ちょっと惜しいと思ってしまう自分も居たりするのだった。 いかんいかん…と釣竿を握り直し、心を落ち着かせていく。 下では四人がまだ遊んでいるのが見える。 よし。大丈夫だ…落ちついてきた 『だいたいサガラはピュアすぎるんだよなぁ』 『そ~そ~。その歳では珍しいよなぁ~』 『いやいやピュアとは違うんじゃぁねぇの?なぁ姉さん』 『そ~ね~…言うならヘタレかしら?青いわよね~』 『違いねぇ!エンジェルも可哀想になぁ~』 『カナメの格好見てなんとも思わねぇの?』 『水着着て出てきたのに一言も無しだもんな』 『あり得ねー』 『俺なら即誉めるね』 『カナメ綺麗だよって~?そんなのソースケには無理よ無理』 『あんな乳見せられちゃ理性なんかすっ飛ぶと思うがね』 『あ~挟まれてぇ』 『柔らかそうな胸…尻…唇…』 『あ~サガラ死ね!』 『白い肌が淡いピンクになって…潤んだ瞳に濡れた唇…』 『ちょっと!カナメをおかずにしないでよね!』 『じゃ~マオが相手してくれよ』 『なっ!ダメに決まってんだろ!』 『クルツに聞いてねえよ』 『そうねぇ…考えとくわ』 『ちょ!メリッ』 「いい加減にしろ!ここは遊び場じゃないんだぞ!」 やっと落ち着いてきたと思ったら無線機から好き放題に言われ放題だ。 だから嫌だと言ったんだ 一段と眉を潜めながら宗介は思った。 だいたい彼女に似合わない服などあるものか。 ただやはりあまり肌が露出したものは控えてほしい。 彼女の身体で下品な妄想をする仲間に鉄拳制裁を加えてやりたいが護衛して貰っている以上そうもいかない。 いつどこから敵がくるか解らないのに弛みきった仲間にだんだんとイライラしてくる。 仲間達の下品な会話を右から左へ聞き流しながら落ち着け…落ち着けと宗介は深呼吸をした。 つづく |
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いつもそうだ。
宗介は限界にならないとあたしには教えてくれない。 傷だらけであたしを守っても、その傷を隠して隠して何にも無かった事にする。 あたしにはもう囁きは聞こえないけど、ソフィアとリンクしていた間に莫大な情報を脳に刻まれてしまった。 だからあたしは実はまだ狙われてる。 今日もキャンプがしたいと我が儘を言って来た。 宗介はずっと反対していて、だんだんあたしと口喧嘩になっちゃってたけど、恭子が 「相良君が居てくれれば何も怖いものなんか無いよ~それに相良君強いお友達沢山居るんでしょ!じゃぁ大丈夫じゃん!」 と言ったのを家の盗聴器で聞いていた第2ミスリルの皆が行かせてやれと説得してくれたかららしい。 女の子にあれだけ言わせてやらなきゃ男がすたるってもんだとクルツくんが笑っていて、宗介がため息をついたのを覚えている。 そういった経緯でこの辺り一帯にはM9やM6が配置され第2ミスリルの皆が守ってくれてる。 「そーすけのばか」 「千鳥…」 くるっと後ろを向いて彼の肩に身を預けた。 頬に当たる彼の首筋から 暖かい体温を感じる。 心配なら心配って言ってくれなきゃ解らない。 宗介はいつも欲しい言葉なんかくれなかった。 いつの間にか目には涙か溜まっていて、少しかすれた声が出た。 「なんでいつも…そうなのよ」 「…」 まだ生々しい傷口にそっと指で触れる。 「-ッ!」 ビクッと宗介の身体が跳ねた。 「痛いよね…ごめんね…いつも」 「…問題…ない…」 宗介の声が少し揺れてる。 あたしの為に 傷ついてしまう それがこんなに辛いなんて… 傷口を撫でながら 宗介の首筋に頬をすり寄せた。 「いつも…ありがとう。そーすけ」 「-ッ…ちど…り」 何かを耐えるような声色にハッとなったあたしは パッとそーすけから離れた。 「ご…ごめん!触ったら痛いって言ってたのに…」 「…」 離れてみた宗介は肩で息をしていた。 やだ…どうしよう… さっきより痛そう… 普段どれほど動き回っても息を切らさないのに… 「そーすけ…大丈夫?今飲み物取ってくるから待ってて!」 そんな彼を見ていられなくて 居ても経っても居られなくなったあたしは急いで荷物まで戻った。 宗介が何か言おうとしていたけど、それどころじゃなかった。 つづく |
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